賃貸物件を退去するとき、学生や保護者の方からよく聞かれるのが、
「長く住んで古くなった壁紙も、入居者が交換するの?」
「経年劣化と通常損耗は何が違うの?」
「6年以上住めば、壁紙の張り替え費用はかからない?」
といった疑問です。
賃貸物件の壁紙や床、設備などは、入居者が丁寧に使用していても、年月の経過とともに少しずつ劣化します。このような自然な変化を「経年劣化」または「経年変化」といいます。
経年劣化による修繕費は、原則として入居者が負担するものではありません。
一方、入居者の不注意や手入れ不足によって傷や汚れが発生した場合は、長く住んでいたとしても退去費用を請求される可能性があります。
この記事では、賃貸物件の経年劣化とは何か、通常損耗との違い、入居者負担にならない具体例、壁紙などの経過年数の考え方を、不動産業界で約20年働いてきた経験をもとに分かりやすく解説します。
賃貸物件の経年劣化とは?
経年劣化とは、時間の経過や日光、温度、湿度などの自然現象によって、建物や設備の品質・性能が少しずつ低下することです。
例えば、次のような変化が経年劣化に該当します。
- 日光による壁紙や床の色あせ
- 畳の自然な変色
- 設備や建具の自然な劣化
- 長期間使用したエアコンの性能低下
- ゴム製部品やパッキンなどの自然な劣化
これらは、入居者の使い方に問題がなくても、年月の経過によって発生します。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、経年変化や通常の使用による損耗などの修繕費用は、原則として賃料に含まれているとしています。
したがって、経年劣化したものを新しくするための費用を、退去する入居者がすべて負担するものではありません。
ただし、実際の負担は、劣化した原因、入居後の管理状況、内装材や設備が使用された年数、賃貸借契約書の内容などを確認したうえで判断されます。
原状回復の基本的な考え方については、以下の記事で詳しく解説しています。
【関連記事】原状回復ガイドラインとは?学生にも分かりやすく解説
経年劣化・通常損耗・故意過失の違い
経年劣化と似た言葉に「通常損耗」があります。
退去時の費用負担を考えるうえでは、入居者の「故意・過失」との違いも理解しておく必要があります。
| 分類 | 意味 | 具体例 | 原則的な負担 |
|---|---|---|---|
| 経年劣化 | 年月や自然現象によって生じる変化 | 壁紙の日焼け、設備の自然な劣化 | 貸主 |
| 通常損耗 | 普通に生活することで生じる傷や汚れ | 家具による床のへこみ、冷蔵庫裏の黒ずみ | 貸主 |
| 故意・過失 | 不注意や手入れ不足による損傷 | 放置したシミ、家具を引きずった傷 | 入居者の可能性 |
簡単に整理すると、経年劣化は「年月による変化」、通常損耗は「普通に暮らすことで生じる変化」です。
どちらも原則として貸主負担ですが、入居者の故意・過失や手入れ不足によって発生・拡大した損傷は、入居者負担になる可能性があります。

通常損耗に当たる具体的な傷や汚れについては、以下の記事をご覧ください。
【関連記事】賃貸の通常損耗とは?学生が負担しなくてよい傷・汚れを具体例で解説
入居者負担にならない経年劣化の具体例
ここからは、一般的に経年劣化として扱われるものを紹介します。
日光による壁紙や床の変色
窓から入る日光によって、壁紙やフローリングの色が薄くなったり、一部が変色したりすることがあります。
日光による自然な色あせは、入居者が通常の生活をしていても完全に防ぐことが難しいため、経年劣化として扱われるのが一般的です。
家具を置いていた場所と、それ以外の場所で壁紙や床の色に差ができることもあります。
例えば、机や本棚を移動したとき、家具の裏側だけ壁紙の色が濃く残っていることがあります。その原因が日光による自然な変色であれば、原則として入居者が全面的な張り替え費用を負担するものではありません。
ただし、飲み物によるシミ、落書き、喫煙による黄ばみや臭いなどは、経年劣化とは判断されない可能性があります。
畳の日焼けや自然な変色
畳は日光や時間の経過によって、徐々に黄色や茶色へ変色します。通常の生活をしていて生じた日焼けや自然な変色は経年劣化に該当し、原則として貸主負担と考えられます。
ただし、仙台の賃貸物件では、退去時の畳の表替え費用を借主負担とする特約が契約書に設けられていることがあります。そのため、「経年劣化だから必ず支払わなくてよい」と判断せず、賃貸借契約書や重要事項説明書の記載を確認しましょう。
特約がある場合でも、次の点を確認することが大切です。
- 借主が負担する内容や範囲が具体的に書かれているか
- 畳1枚当たりの金額や負担額を判断できる記載があるか
- 契約時に説明を受け、借主が内容を認識して合意しているか
- 借主に一方的に過大な負担を求める内容になっていないか
契約書に「退去時の畳表替えは借主負担」と明確に記載され、内容を理解したうえで契約している場合は、自然な日焼けしかなくても費用負担が発生する可能性があります。
注意点
特約が書かれていれば、どのような請求でも当然に認められるわけではありません。記載が曖昧な場合や請求額に疑問がある場合は、特約の内容と費用の内訳を確認しましょう。
国土交通省も、経年変化や通常損耗の修繕費用は原則として賃料に含まれる一方、現在の契約については契約内容に沿った取り扱いが原則であり、曖昧な条項などはガイドラインを参考に話し合うとしています。
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
設備や部品の自然な劣化
賃貸物件に設置されている設備や部品も、長期間使用すると少しずつ劣化します。
例えば、次のようなものです。
- エアコンや換気扇の性能低下
- 給湯器の自然故障
- 水栓やパッキンの劣化
- 建具に使われている部品の摩耗
- 網戸やゴム製部品の劣化
入居者が正しく使用していたにもかかわらず、設備が寿命や自然な劣化によって故障した場合は、原則として貸主側が修理・交換します。
ただし、不具合に気づきながら長期間連絡せず、被害を拡大させた場合は、拡大した部分について入居者の管理状況が問題になることがあります。
設備に異音や水漏れなどの不具合が見つかったときは、自分で分解したり修理したりせず、早めに管理会社へ連絡しましょう。

経過年数は退去費用にどう影響する?
退去時の費用負担を考えるうえで重要なのが「経過年数」です。
建物の内装材や設備には、年月の経過によって価値が低下していくという考え方があります。
仮に入居者の不注意によって壁紙を傷つけたとしても、長期間使用された古い壁紙と、新しく張り替えたばかりの壁紙では、残っている価値が異なります。
古い壁紙を新品と同じ価値があるものとして、入居者へ交換費用の全額を請求すると、貸主と入居者の費用負担のバランスを欠く可能性があります。
そのため、国土交通省のガイドラインでは、入居者負担となる損傷がある場合でも、建物や設備の経過年数を考慮し、年数が長いほど入居者の負担割合を減らす考え方を採用しています。
「経過年数」と「入居年数」は同じではない
退去費用を確認するときに、特に注意したいのが「経過年数」と「入居年数」の違いです。
経過年数とは、その内装材や設備が設置・交換されてから経過した年数です。
一方、入居年数とは、現在の入居者がその部屋に住んでいた期間です。
例えば、入居者が4年間住んでいたとしても、入居時に壁紙が新品だったとは限りません。入居前から2年間使われていた壁紙であれば、退去時点で壁紙が使用された期間は合計6年になります。
| 確認する年数 | 意味 |
|---|---|
| 経過年数 | 内装材や設備が設置・交換されてからの年数 |
| 入居年数 | 現在の入居者が部屋に住んでいた年数 |
原則として、費用負担の計算では、入居期間だけでなく、その内装材や設備が設置・交換されてからの経過年数を確認します。
ただし、いつ設置・交換されたものか確認できない場合は、入居年数を参考にして負担割合を考えることがあります。
退去時に修繕費を請求された場合は、「何年住んだか」だけでなく、「その壁紙や設備はいつ交換されたものか」も確認しましょう。
壁紙は6年で残存価値1円が目安
国土交通省のガイドラインでは、壁紙について、6年で残存価値が1円になるような考え方を示しています。
新品の壁紙の価値を100%とした場合、単純化すると次のようなイメージです。
| 壁紙の経過年数 | 残っている価値の目安 |
|---|---|
| 新品 | 100% |
| 2年 | 約67% |
| 4年 | 約33% |
| 6年 | 残存価値1円 |
例えば、入居時に新品だった壁紙を入居者が4年後に不注意で傷つけた場合、壁紙の残っている価値は単純計算で約3分の1です。
仮に壁紙部分の張り替え費用が6万円だった場合、残存価値だけを単純計算すると、約2万円が入居者負担を考える際の一つの目安になります。
ただし、実際の負担額は、損傷の範囲、施工単位、工事内容、壁紙が交換されてからの年数、賃貸借契約の内容などによって異なります。
東北大学生の場合、学部卒業まで同じ部屋に4年間住むことがあります。また、理系の大学院進学や医・歯系学部への在籍によって、同じ部屋に6年以上住むケースもあります。
長期間住んでいる場合は、傷の有無だけでなく、内装材や設備の経過年数が負担割合へ適切に反映されているか確認することが大切です。

6年以上住めば退去費用はかからない?
壁紙の残存価値が6年で1円になると聞くと、
「6年以上住めば、どのような傷を付けても費用はかからない」
と思われるかもしれません。
しかし、これは正確ではありません。
壁紙の経過年数は、入居者負担となる損傷があった場合に、その負担割合を考えるための基準です。入居者の原状回復義務そのものがなくなるわけではありません。
例えば、次のような場合は、6年以上居住していても費用負担が発生する可能性があります。
- 壁紙へ故意に落書きをした
- 壁の下地まで大きく損傷させた
- 喫煙による臭いやヤニ汚れを残した
- 手入れ不足によってカビを拡大させた
- 契約で合意した有効な特約がある
また、壁紙の材料価値だけではなく、損傷の状況や補修に必要な作業などが別に検討されることもあります。
したがって、「6年以上住んだ=退去費用がすべて無料」ではありません。
請求を受けた場合は、何に対する費用なのか、経過年数がどのように考慮されているのかを確認しましょう。
すべての設備が6年で価値1円になるわけではない
壁紙の6年という考え方が、そのまますべての内装材や設備に適用されるわけではありません。
内装材や設備によって、経過年数の考え方や耐用年数は異なります。また、畳表やふすま紙など、消耗品として経過年数を考慮しないものもあります。
フローリングについても、傷ついた部分だけを補修する場合と、床全体を張り替える場合では考え方が異なります。
退去費用を確認するときは、「耐用年数は何年か」だけでなく、次の内容も確認することが大切です。
- どの内装材や設備が損傷しているのか
- いつ設置・交換されたものなのか
- どの範囲を補修するのか
- 経過年数を考慮しているか
- 請求金額の内訳が示されているか
「壁紙は6年」という情報だけで、すべての退去費用を判断しないようにしましょう。
経年劣化に見えても入居者負担になる場合
年月がたってから見つかった傷や汚れでも、必ず経年劣化になるわけではありません。
例えば、仙台の冬に発生した結露を長期間放置し、換気や拭き取りを行わなかったことでカビが拡大した場合は、入居者の手入れ不足と判断される可能性があります。
設備の自然な劣化によって水漏れが起きた場合でも、不具合に気づきながら管理会社へ報告せず、床や壁まで被害を拡大させたときは、拡大した損傷について入居者の責任が問題になることがあります。
また、設備が古くても、通常とは異なる使い方や不注意によって故障させた場合は、単純な経年劣化とは扱われません。
設備が古いことと、故障の原因が経年劣化であることは別の問題です。
不具合を見つけたときは、自分で原因を決めつけず、写真を撮ったうえで早めに管理会社へ連絡しましょう。
入居時と退去時に確認しておきたいこと
経年劣化による退去トラブルを防ぐためには、退去時だけでなく、入居時から室内の状態を記録しておくことが重要です。
入居時に行うこと
- 壁紙や床の傷・変色を撮影する
- 設備の製造年や状態を確認する
- 入居時確認書を期限内に提出する
- 不具合があれば管理会社へ報告する
- 原状回復に関する特約を確認する
入居中に行うこと
- 結露や水滴を放置しない
- 異音や水漏れを早めに報告する
- 設備を正しい方法で使用する
- 管理会社への連絡履歴や写真を残す
退去時に確認すること
- 経年劣化ではないと判断された理由
- 補修が必要な範囲
- 内装材や設備が交換されてからの年数
- 経過年数を考慮した負担割合
- 見積書や精算書の詳しい内訳
- 賃貸借契約書に関係する特約
敷金から差し引かれる費用については、以下の記事も参考にしてください。
【関連記事】賃貸物件の退去時の敷金精算の考え方とは?
【関連記事】東北大学生の賃貸契約|敷金とは?返金の仕組みと退去時の注意点
経年劣化と修繕費を判断するための関連記事
経年劣化に該当するか判断するときは、入居期間や設備・内装の使用年数だけでなく、傷や汚れが生じた原因も確認します。原状回復の基本や通常損耗との違いを理解したうえで、壁紙や床など請求された箇所ごとに負担区分を確認しましょう。




まとめ|年月による自然な劣化は原則として貸主負担
経年劣化とは、年月の経過や日光、温度、湿度などの自然現象によって、建物や設備の価値や性能が低下することです。
日光による壁紙の色あせ、畳の自然な変色、設備の自然な劣化などは、原則として入居者が修繕費を負担するものではありません。
一方で、年月がたっている傷や汚れでも、不注意や手入れ不足が原因であれば、入居者負担になる可能性があります。
また、経過年数と入居年数は同じではありません。退去費用を確認するときは、自分が住んでいた期間だけでなく、その内装材や設備がいつ設置・交換されたものかを確認することが大切です。
壁紙は6年で残存価値1円になるように考えるのが目安ですが、6年以上住めばすべての退去費用がなくなるわけではありません。
退去費用を請求された場合は、次の点を確認しましょう。
- 傷や汚れが発生した原因
- 内装材や設備が使用された年数
- 経過年数を考慮した負担割合
- 補修する範囲
- 請求金額の詳しい内訳
- 賃貸借契約書の特約
経年劣化、通常損耗、入居者の故意・過失の違いを理解し、納得できる敷金精算につなげましょう。

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